連載 第4回
Ver.Ka20周年記念キットの開発を追った連載第4回では、設計担当のコメントを交えながら、アニメ設定に準拠したフォルムと変形について迫っていく。ランナー状態やこだわりの変形シークエンスも撮り下ろしで紹介しよう!
MESSAGE[1]:
BANDAI SPIRITS
ホビーディビジョン開発担当
MS/WR形態が当時の「アニメオリジナルを追求したフォルム」になるように、そこから逆算して変形ギミックを詰めることを重要視しました。また、もうひとつの大事な要素として「アニメ設定に近い変形シークエンスを、なるべくシンプルな変形方法(変形ギミック)で再現したい」とのミッションを企画担当より貰ったため、その両立を目指すように心がけたつもりです。それに加えて「変形の関係で可動域が犠牲にならない構造」や「変形保持のためのロック機構の導入」も取り入れ、設計しました。
「アニメオリジナルを追求したフォルム」で言いますと、例えば太モモとスネの位置関係はWR時には太モモの上部とスネの上部がほぼ同じ位置にあるのですが、なかなかこの再現を今まで追いきれていなかったため、ヒザの3軸可動と連動構造を掛け合わせて、その設定再現をしています。また、MS形態のアニメ画稿をしっかりと追いかけていく過程でカトキさんから「アニメ画稿はMS時の腕がガッチリとしていて拳も太くたくましい、でもフライング・アーマーはとてもコンパクトな印象」(1/100の本体に1/144サイズのフライング・アーマーをつけてもいいくらい)、というお話を頂いたので、太くたくましい腕を1/144サイズほどのフライング・アーマーに収納する上で、どのような変形ギミックで落とし込みフォルムと両立させるか、とても悩みながら設計を進めていきました。私の場合はこのような設計検証をする際は、CAD上で両形態に可変する計算式を作成し、何度もモデル上で変形させて残されたスペースを探して、そこにしまっていくというスタイルで検証しておりますが、それでも腕が収まらず悩んで模索していた際、当時のデザイナー様が描いた変形工程に「前腕を縮める」という記述を見つけ、アニメ放映時の画稿や記述をオマージュする今回のテーマに即していたため、新たに導入することにいたしました。その後、細かい変形干渉部分も何度も計算し拳を90度曲げるなどして何とかフライング・アーマーの中に収めることができましたので、この点は変形ギミックとしてかなり重要視した部分かと考えております。この他にもWRがなるべく薄く見えるように、シールドがくの字に逆折れするギミックを入れ、なるべく先端は細く見せつつ、頭と胴体を収める工夫なども取り入れてみました。WRを下から煽って見る画稿にはパースがついており、シールドをちょっとくの字に曲げたようにも見えたので、意外に違和感なくまとまったように思います。
フロントビュー:
無塗装、シールを貼っていなくてもアニメ設定の色分けを最大限に再現している。シールドや脚部の△ディテールも成型色で表現されている
パーツ数が減り、ランナーも1/100スケールキットにしては数が抑えめになっている。パーツが探しやすいのも嬉しい
腰部アーマーはグレーパーツが見えるように、メカディテールの形に抜かれている。頭部もバルカン砲の銃口部が空いている
金属の光沢を再現したエクストラフィニッシュ。胸のブレードアンテナ、靴裏、フライング・アーマーなどに使われている
脚部内のパーツ。見えなくなってしまう部分にもメカディテールが彫り込まれている。組み立てる人だけが知るこだわり
脚部スラスターの外装を外すとグレーのメカディテールが現れる。さらにディテールを足して、作り込むのもいいだろう
握り拳、武器持ち手、平手のパーツ。アニメ設定に合わせて大きめのサイズ感となり、表情豊かな造形になっている
アニメ設定を意識したフォルム
頭部/ツインカメラアイ
試作品の頭部への監修。アニメ設定画稿を参考に、眉間下のマスク部分は狭く、ツインカメラアイはツリ目気味で先端は鋭くとの書き込みがあり、インテークの形状にも細かく指示が書き込まれている
コクピットハッチ:
コクピットハッチの先端が股間ブロックと干渉しないように胸部ブロックを少し上げ、コクピットハッチを開閉する。アニメ設定に合わせた開閉方法を再現している
立ち姿でパイロットスーツのカミーユが新規造形で付属。ほかにコクピット内のカミーユも付属する
前腕内部パイプ/ハンドパーツ:
修正前だとパイプのうねり方が極端で、自然な感じに見えないため、カーブの形状を修正しながら、パイプのピッチを減らす指示が書き込まれている。テストショットを確認するとパイプのうねりが修正されているのが分かる。大きくなった握り拳のディテールにも注目
フロントアーマー:
アニメ設定に合わせてフロントアーマー下の斜面はテーパーが強くなっている。太モモ部は横回転の可動が入り、自然な立ち姿になるように角度を付けることができる
脚部/かかと:
赤いかかと部分は、MG Ver.1.0や2.0と比べると厚みが抑えられた造形になっている。脚部のスラスター部分はディテールに沿ったパーツ分割になっている
MESSAGE[2]:
BANDAI SPIRITS
ホビーディビジョン開発担当
「アニメ設定に近い変形シークエンスを、なるべくシンプルな変形方法(変形ギミック)で再現したい」という点については、わかりやすい1例をあげるとすればフライング・アーマーと胴の接続と変形方法の部分が挙げられるかと思います。設計者視点ではこの部分を考える際にはどうしてもMSでの位置、WRでの位置が決まっておりその位置に移動させるためには「多軸のアームを回して折りこんで回して…」と定石の変形パターンで再現せざるを得なかったのですが、企画担当から「過去モデルはこの部分が複雑で変形させづらい」と相談があったため、もっとシンプルに考え「“く”の字に曲がったアームを伸ばす、そのあとにフライング・アーマーごと回す、最後に上下方向にスライドさせて位置調整」と変形ギミックを再検討したところ、比較的シンプルな変形行程でまとまったのではないかと思います。合わせてアニメの変形シークエンスにも近づいたので、その点も今回のモデルのテーマに沿った形にできたかと考えています。このような変形の簡潔さの部分は当時の1/100キットをかなり意識しています。胸のサイズ感などの話もありますが、80年代の2次元図面時代にここまで洗練された可変機構を設計できていることに一設計者としてとても感銘を受けましたので、本モデルの随所にその影響が出ているように思います(※たしか説明書には記述はないですが、前腕が微妙に縮められたような気がしますので、その記憶もあり前腕を縮める着想ができたのかもしれません…)。本モデルを購入される方の中にも、もしかすると当時の1/100キットがお好きな方がいるのではという狙いもあり、設計の後半には意識してオマージュした部分もあるかと思いますので、ぜひお手にとって見つけてもらえると嬉しいです。
「変形の関係で可動域が犠牲にならない構造」については、また変形ギミックの関係で胴から腰周りの可動に制限が出てしまう、もしくは可動保持力が損なわれることがないように、太めの可動軸を内包しつつ以前設計を担当させてもらったMGダブルゼータガンダムVer.Kaで考えた多軸可動構造のニュアンスを拾って今までのモデルより多方向で可動できる設計を目指しました。WR変形時にはロックがかかるようにもして、特許出願もしましたので、こちらも本商品の特徴のひとつにできたかと考えております。
「変形保持のためのロック機構の導入」については、WR変形後のカッチリ感を少しでも高めるために、リアアーマーが胴背面に入り込んでロックする設計にしています。こちらはアニメ設定でもWR時は胴とリアアーマーの間隔が短く見えるので、設定再現も兼ねた演出にできるといった狙いもあります。この他にも各所にロックを設け、剛性が高まるよう設計したつもりです。
MS形態:
変形でMS形態時の可動域が制限されないように多軸構造の可動ギミックを内蔵。肩は「ハ」の字に開き、自然なポーズを取ることができる
ウェイブ・ライダー形態
ビーム・ライフルの銃身を縮め、グリップを回転させてロングテール・スタビライザーのマウントラッチに装着して完成。クサビ形のシルエットを形成し、上下の厚みも抑えられている
アニメ設定での変形:
アニメ設定画稿に書き込まれた解説を読み込み、今回の変形に盛り込んでいる。設計担当のコメントにあるように、「腕が縮む」「手首上へ(曲げる)」などの書き込みがある
各部にロック機構を搭載:
ロック機構により飛行機モデルのようにディスプレイが可能。頭部を胴体に下げることで棒がナット状のパーツに深く刺さりロックがかかる。リアアーマーと腰パーツをクランク可動させて上に移動、胴体に装着させるとロックがかかる
ウェイブ・ライダー形態で上下の厚みを抑える工夫として、シールドが反るように変形する。紺の下部はフライング・アーマーとの隙間をなくすように張り出させる指示が書かれている
Ver.2.0と比較しながら、フライング・アーマーの形状をアニメ設定に近づける指示が書かれている。拡張される翼をアニメ設定画稿に近い支点で展開する形に調整。翼展開時の段差を抑え、形状の流れを整えている
こだわりの変形シークエンス
※掲載している開発画稿は準備稿です。実際の商品とは異なります。