2013.4.2 第5回レポート
2013.3.25 第4回レポート
2013.2.1 第3回レポート
2012.12.26 第2回レポート
2012.11.29 第1回レポート
第6回レポート | 2013.6.27 |
久々の更新となる第6回目の今回は、バンダイ 1/72 VF-1バルキリーの発売を迎えた最後のレポートとなる。 5回目のレポートから2ヶ月以上が経過する間にも、開発者の作業はまさに昼夜を分かたず進められていたことはいうまでもない。次第に完成に近づくVF-1だったが、光造形のサンプルが更新され、ギミックや可動などが具体的に形として現れた時、「ここをもっとこうすれば、もっと良くなる」という欲求が湧き上がってくるのは当然だ。そこに妥協は一切なかった。バンダイも、そしてもちろん河森正治監督も、この新作のバルキリーを堂々と世に送り出すべく、実に細かな点まで修正を繰り返した。 |
バンダイの数あるプラモデル製品の中でも、これほど監修と修正を繰り返して完成にこぎ着けるものはそう多くはない。いや、ここまで徹底的に行われたアイテムはバンダイ史上でもそう多くないのではないか?
VF-1の監修と修正作業を間近で見て感じたのは、「ファイターとバトロイド双方のバランス追求」、「1/72スケールのプラモデルで可能なギミックの落とし込み」といったテーマに沿って設計された、ある意味でバンダイの挑戦ともいえる設計に対し、河森正治監督は常に「より良い解答へ至る道筋」を一緒に考えてくれている、ということだった。 開発側の提案に対する「こういう方向性ならば、こうした方がいいのではないか」といった河森監督の修正案を、静岡にあるバンダイホビーセンターでは即座に反映し、数日後には新たな光造形試作として出力し、その結果を再び監督にチェックしてもらった。この“キャッチボール”が幾たび繰り返されたことか。 |
■テストショットを手にする河森正治監督 |
さらに、今回は金型が彫り上がり、テストショットが打ち出された後にもさらに修正が加えられている。ただでさえ限られた時間の中での進行だったが、バンダイはこれに応えた。 具体的には、機首のバーニアスラスター(俗にいうマルイチモールド)の位置変更や、前脚のタイヤの大きさ変更、各部のモールド調整といった細かな部分から、ストライクパーツの大きさ調整、連装ビームカノンの砲身形状変更などだ。「これで良し」というレベルから、さらに高みを目指す開発、内田氏。そこまでやるのか、と驚いたほどだ。 |
■バーニアスラスターの微妙な位置に至るまで、検討と調整が繰り返された |
プラモデルの製品開発というのは、キットそのものだけでは成立しない。キットに貼るデカールのデザイン決定、パッケージ(箱)や組み立て説明書といった印刷物、販促のための画像作りなど、全体の進行管理も滞りなく進まなければ発売できない。しかし、それらもキットが完成しなければ始まらない。部品の構成や形状が変われば組み立て図も影響を受けるし、パッケージイラストもキットの最終外観を元に描かれる。各部署は可能な限り「今できること」を探して作業を進めながら、キットの完成を待った。
パッケージイラストを担当した天神英貴氏もそのひとりだ。最終に近い段階で天神氏も河森監督とともにテストショットのVF-1を見て、バルキリーイラストの第一人者として、そしてひとりのファンの目線から意見を述べた。河森監督とのディスカッションを経て、そこから提出された提案も、最終仕様に反映されている。 |
■河森監督(右)とバルキリーイラストレーターの天神英貴氏(左)。雰囲気は和気藹々としているが、VF-1の試作品を見つめる目は厳しい。 |
最終仕様が決定し、完成したデータが各担当者に渡ってからは一気に製品に必要な一切のものがまとめ上げられていった。バンダイの底力を感じさせる、凄まじいまでの追い込みだった。
ここに名前が挙がらない数多くの人の努力により、また新たにひとつのプラモデルが世に送り出された。 プラモデルの楽しみは、究極的にいえば「ミニチュアで本物を味わう」という1点に尽きる。形となった架空の可変戦闘機を手に取ることができることは、ファンにとってこれに勝る喜びはない。これまでに様々なVF-1の立体が存在したが、それぞれに製品のコンセプトは異なっていた。バンダイの新作1/72 VF-1も、随所に新たな試みが盛り込まれており、それは前回までに紹介してきた通りだ。 |
■ほぼ完成に近づいたVF-1。テストショットが上がってからも調整は続けられた。 |
実際に組み立ててみると、実に多くのことが解る。限られたスペースの中に、どれほど多くのギミックを詰め込んでいるか。たとえば最初に組み立てる機首などは、バトロイド時の腰部の関節機構、コクピット、そして前脚が入っている。パーツのクリアランスはギリギリだが、危うさは感じない。なんと美しく、きっちりと収まっていることか。
ひとつひとつ部品を組み、あるべきところにはめ込んでいくという、プラモデル製作では当たり前の作業だが、このVF-1は今までにない新鮮な驚きに満ちている。それでいて、驚くほど組みやすいのだ。パーツ数は多いように感じるが、ランナーへのパーツの配置が巧みで、腕なら腕、脚なら脚のパーツが近いところにレイアウトされているため、あちこち探すストレスがない。いくつかのパーツを組み合わせれば、見慣れたVF-1の各部がすぐにできあがるだろう。 この感動は、手に取った者にしか味わえない。これこそがプラモデルの醍醐味といえる。 この、ほかにはない唯一無二のものをぜひとも味わってほしい。開発者の苦労そのものは、ファンには関係ないことだ。だが、キットのランナーからは、熱意と創意工夫と、そしてキットへの想いや思想といったものが必ず伝わってくるはずだ。 内包されたそのドラマは、あなたのVF-1への思い入れをさらに強くし、キット製作の時間をもっと楽しいものにしてくれるだろう。 |
■胴体部には、主翼の可変機構、脚部の移動機構、胴体の中折れ機構などが詰まっている。それだけの可動機構を実現しながらも横から見るとこの薄さの中に収まっているところに、バンダイの設計技術の高さが窺える。 ■組み上がったテストショット。 |
※掲載しました写真は開発中のため、実際の製品と異なる場合がございます。
第5回レポート | 2013.4.2 |
3ヶ月にわたった河森正治監督の徹底的な監修は、あらためて可変モデルであるVF-1の難しさを実感させた。むろん、開発は無期限ではないから、外観の修正を繰り返す中でも可能な限りいわゆる「中身」や「ディテール」、そして「装備(オプション)」の設計も同時進行で進められた。
バンダイ静岡工場の設計チームはそれこそ昼夜を問わない作業の連続でこれに対応したのだ。しかし、開発の陣頭指揮をとるバンダイ ホビー部の内田氏は「時間がないことを理由にして妥協したくなかった」といい、再三に及ぶ河森監督の修正要請に対し1つ1つ真摯に向き合い、解決策を講じていった。
その結果、フィックスした外形がこれだ(今回掲載するCGはすべて開発中であり、今後の調整等により実際の製品では異なる仕様となる場合があることに注意)。航空機(ファイター)としてのリアリティ、そしてロボット(バトロイド)としての存在感。その両者のバランスを最大限に考慮した新たなVF-1の形が完成した。
■右図のバトロイドの頭部が試作CGではJ型のものとなっている。 これに加え、「モデルが本当に実在したら」と仮定した時に必然的に見えてくる細部のディテールにもどんどん手が加えられる。この思考法はガンプラのRGシリーズで意識的に採り入れられたものだが、VF-1はすでにアニメ登場時より演出にこうした概念が持ち込まれていたものだけに、実に違和感なくマッチングする。 例えば、見えにくい側面や変形により外からは隠れてしまう内側でも、パネル表面にはディテールが入る。このディテールはバンダイ側から提示され、すべて河森監督によってジャッジされて盛り込まれるものだ。 では次に、今回明らかになったVF-1バルキリーの代表的な仕様について解説していこう。 |
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製品は劇場版「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」の設定に準じたものとなる。第1弾としてリリースされるのは主人公・一条 輝(いちじょう ひかる)の乗機であるが、彼は劇中で2種類の専用機体を使用した。すなわち、VF-1AとVF-1Sである。
今回のキットではこの2種類をコンパチで再現可能だ。頭部はA型とS型の2種類が同梱され、組み立てた後からでも換装することができる(機体番号などやカラーに変更はないため、それが可能なのだ)。 |
この脚部変形用アームこそ、これまでの市販バルキリーモデルのいずれでも再現されなかった機構であり、ファンの間で「いつ、どのメーカーが再現に挑戦するのか?」と常に注目され、そして長らく嘆息とともに見送られてきた部分だ。
河森監督によってTV版の初期から設定画稿として明確に構造が指定されていながら、誰も実現できなかった部位。
VF-1の脚部は、かなり乱暴にいってしまえば本体と完全に分離された構造を持っている。普段はメインインテークのあたりで本体と固定されているが、実質的にはこの部分のロックがなくなれば脚全体を取り外すことが可能だ。この機構はそのロックそのものであり、またバトロイドへの変形時に機首先端にある股関節位置まで脚部を大きく移動させるためのアームとなる。 だが、強度的な問題であったかもしれない。複雑になりすぎスケール的に無理があった箇所かもしれない。多くの設計者が慎重な検討の結果やむなく断念し、ほかの方式へと切り替えざるを得なかったこのシリンダー状構造が、現実の立体として目の前にある。これに感動しないバルキリーファンがいるだろうか? 1/72スケールという構造的に余裕のないはずの設計で、これを再現しようとした内田氏をはじめとする開発チームの本気がどれほどのものか解るはずだ。 そのほかにも主翼は引き込み機構を有し、バトロイド変形後に翼長を短くしシルエットを整える。これもほかでは見られなかったアイデアだ。 |
■市販モデルとしては初めて再現された脚部移動用アーム。シリンダーによる回転、伸縮機構が構造としてきちんと再現されている |
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■ファイターとバトロイド双方においてプロポーションが最適バランスとなるよう工夫されている |
ファイター時に両腕を間に挟み込むエンジンナセル(脚部)は内壁が一段内部へ落とし込める構造になっているのが特徴だ。これは収納部の容積を増し、バトロイド時の腕部が細くなりすぎないようにするためだ。これによりファイター時のフォルムを崩すことなく、力強いバトロイドの腕部が実現できる。
■脚部の内側はパネルを内部にへこませる新機構を採用 |
■手首は基部で回転して内部に収納される(ファイター時) |
そのほか、脚部の膝や足首は変形時に伸縮するが、各形態でピタリとパーツ位置を保持するためのロック機構も設けられている。実際にパーツ構成を眺めてみると、これだけの小さなモデルの中に様々な機構が詰め込まれており、組み立てるだけでも充分に楽しさを感じることができるだろうと想像できるのだ。
まずは腰回りだ。機首のレドーム分割ラインを軸とする回転、及びスイング機構により、ポージングの自由度を確保。
さらに画期的なのは、フトモモ(インテーク直後)に設けられた関節だろう。 バトロイドの脚部の可動にとって常に難問として立ちはだかってきたのは、脚を横に広げる際のクリアランス問題だ。股関節は機首に対して横に張り出しており、上部に長いインテークがあるため、これが機首側面と干渉して自由に動かせなかったのだ。 |
■レドーム基部に腰を可動させる関節が内蔵される |
バンダイの設計部ではこの問題を、フトモモ中間部に横向きに広がる関節によってクリアした。同時に、これはガウォーク時においても有用である。
脚部は関節で構成された「骨」を中心に外装が装着される精密な設計となっているが、これは設計はもちろん成型技術が高度であるがゆえに実現可能となったものだ。製品が発売された暁には、読者自身の目でぜひとも確かめてほしい部分だ。
■脚の可動範囲を広げ、ナチュラルなポージングを可能とする新概念の関節 |
■足首内側に干渉する下端のパネルが可動する |
さらに、バトロイドの足首にも一工夫が。
脚を広げられるようになっても、足首が曲がらなければ自然な接地感は得られない。バンダイ VF-1では脚部内側下端のパネルを可動式とし、足首を内側へ曲げやすくしているのだ。
■同スケールのパイロットフィギュアが付属
VF-1のキットに付属するのは、同スケール(1/72)のパイロットフィギュアだ。第1弾キットには一条輝が立ちポーズ、及びヘルメットを装着したコクピット着座姿勢の2つが付く。 武装はガンポッドが付属。銃身の伸縮機構の再現のほか、グリップが可動式。またスリング(吊り帯)も再現される。 |
■標準武装のGU-11ガンポッド |
■ストライクパックはストライクパーツの二連装ビーム砲塔は可倒式でバトロイド時に前方へ向けた射撃姿勢にすることが可能だ。 このストライクパックは完全に独立した設計になっており、機体の完成後に組み替えなしで装着が可能だ。 特に背中に架装するマイクロミサイルポッド+ブースターパックの取り付け部分は画期的だ。尾部ブロック上にある垂直尾翼を畳んだ後にこの基部が一段内部に押し込まれる。そこに表れるダボ穴にパックを取り付ける仕組み。実にスマートな設計といえる。 なお、このストライクパーツセットにはVF-1の各種武装も含まれている。 |
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■AMM-1アロー空対空ミサイルもストライクパーツセットに同梱される。AMM-1は架装状態(×12発)と飛行状態(×4発)が用意された |
■マイクロミサイルポッド、対艦反応弾も付属。反応弾は1つのパイロンに2発搭載するバージョンも同梱され、片翼2箇所のハードポイントに計3発を懸架できるのだ |
基本の空対空兵装であるAMM-1アローはパイロン(兵装架)に3基ずつ搭載されたものが4つ、そのほかマイクロミサイルポッドや対艦反応弾も付属。
主翼へのパイロンの装着は、主翼上のパネルを交換して取り付け用パーツとすることでカンタンに行うことができる。通常時(非搭載時)の外観を損ねることもなく、秀逸なアイデアだ。 |
今回は判明したキット仕様を一気に紹介してみたが、いかがだったろうか。数々の新機軸は概念こそ以前から温められていたものだが、外形の幾度もの修正の中でその度に微調整を行い、熟成されてきたものだ。
まだまだ紹介しきれない秘密がこのVF-1には隠されているが、紹介したポイントだけでも充分にワクワクできるのではないだろうか。目下バンダイでは6月29日の発売を目指して追い込みに入っている。
新たなVF-1がキミの前に姿を現すのももうすぐだ!
©1984 ビックウエスト※掲載しました写真は開発中のため、実際の製品と異なる場合がございます。
第4回レポート | 2013.3.25 |
考えてみれば、VF-1のアウトラインの決定までにここまでの時間を要するとは、開発担当の内田氏もまったく予想していなかったに違いない。実際のところ、開発予定は押しに押して現在はこの遅れを取り戻すべく懸命な設計作業が進められている。今回は上半身の内部構造のほか、機体以外のもの(装備など)についても詳しく紹介していこう。
■最新のVF-1の外観。ただし、各部の細かなモールドなどはまだ反映されていない。今後も少しずつブラッシュアップされていくだろう
完成したVF-1の機体外観は、ひと言でいって非常によくまとまったという印象だ。何度もいうように、VF-1はファイターとバトロイドというまったく異なる両方の形態について、どちらにも破綻がないよううまくバランスを取らなければならない。このことは、他社を含めこれまでに世に出たバルキリーモデルを手がけてきた設計者たちに同様に課せられてきた難問だった。
オーソドックスに、あるいは逆に野心的に形を作っていくにしろ、それを「VF-1らしく」まとめるかがいかに難しいことであるか、あらためて今回の開発に立ち会ってみて解った気がする。ラインがわずかに外側、または内側を描くだけでメカが空間に描き出すシルエットはまったく違ってくる。叩き台として最初に提示された立体を、河森正治監督による指摘により少しずつその形の中で「VF-1らしさ」が与えられていく様子は、実に興味深いものだったと言っていい。
結果としてこの新しいVF-1は、バンダイらしい個性あるものとして、かつVF-1のアイデンティティとはなんだろうか? ということを新鮮な気持ちで見る者に考えさせる、ある意味で意欲的なものとなったのだ。
さて、それでは今回の公開監修会で我々の前に姿を現した最新試作を紹介していこう。
2月上旬のこの日、アニメスタジオ・サテライトの河森監督のもとへ持ち込まれた試作は、VF-1バルキリーの上半身のものである。ファイター形態でいえば機首から胴体(グローブ)部分が新規で、そのほかの部分(脚部や尾部ブロック)はフィックスされた外形のみを光造形出力して全体を作り上げている。 胴体は変形によって中折れする機構が組み込まれた。同時に、腕部の移動用の支持架、そして驚くべきことに、脚部の変形用アームが構造として再現されている(!) |
■バトロイドの上半身となる胴体の光造形試作を裏側から見た写真 |
変形機構で特筆すべきことはまだまだある。バトロイドの上半身を見ると、中折れ構造で剥き出しになった首周りも様々な工夫が見て取れる。
一見、グローブが2つに折れて胸、背中へと分かれる単純な構造のようでいて、その位置関係は絶妙なバランスを保っているのだ。首は埋まりすぎず、飛び出すぎず、また肩の位置も同様に上すぎも下すぎもしない。その秘密は中間にある連結アームの角度を見てもらえれば簡単に理解できる。後ろから前にかけて緩やかに角度が付いているのが見えるはずだ。 |
■バトロイドの上半身。頭部や胸部、肩などすべての空間的配置や大きさがが高度にバランスされている |
■バトロイドの全身図。最新試作の上半身以外は前段階の試作とのハイブリッドである
そのほか、武装やフィギュアといった付属物も、VF-1の外観が決定したこともあって急ピッチで設計が進んでいる。フィギュアに関しては小指の先ほどの大きさであり、頭部などはそれこそ米粒よりも小さいほどのものだが、なんと原型師が手で造形を行っているという。その精巧さは想像を絶するほどで、目を表すモールドなどはルーペを使わないと見えにくいほどのものだ。
人間の心理というのは不思議なもので、ここまで完成度が高いとそれ以上を要求したくなるものらしい。河森監督はこのフィギュアにすら監修の手を入れる。だが、「ここをもうちょっと下げて」といった指示は、実質的にゼロ・コンマ数ミリというオーダーの修正だ。それを実際に作業する原型師の苦労はいかばかりなものか。これはもう神業に近いだろう。同情というよりもむしろ尊敬の念さえ抱きつつ、河森監督のこだわりもさすがだと感心せざるを得なかった。 |
■武装などの設計も着々と進みつつある。変形と直接関係しないミサイルなどは本体の外観さえフィックスしてしまえば設計も早い |
■コクピットにパイロットフィギュアを座らせたところ。航空機に詳しい人であれば、前面のディスプレイパネルがパイロットの目線の正面に来ていることが判るだろう。こうした気づきにくい部分にも、バンダイがいかに細かく神経を使って設計しているかが表れている
新しいアイテムが誕生する場合に、我々が無意識に欲しているのはなんだろうか? それがすでに幾たびも形になっている場合は、「次はどんなものを見せてくれるのだろう?」といった期待である。
要素は大きさ、形、ギミック、付属品、完成度、なんでもいい。新しいものがなにもない場合、人は興味を失う。後発であったバンダイにはファンから無言のうちに「なにをボクらに見せてくれるの?」というプレッシャーがあったはずだ。今回の監修会において、読者諸氏には自信を持って「これがバンダイの新VF-1だ!」といえる要素が出揃ったのではないだろうか。
■2月上旬に行われた公開監修会の様子
次回はいよいよ「新要素」についてお伝えしていきたいと思う。次回をお楽しみに!
©1984 ビックウエスト※掲載しました写真は開発中のため、実際の製品と異なる場合がございます。
第3回レポート | 2013.2.1 |
前回、前々回と「公開監修会」の名で行われたバンダイと河森正治監督とのやり取りは、ある意味でユーザーを代表する立場ともいえる各ホビー誌記者たちを前に形状や開発の方向性をオープンにし、その意見も参考にしつつ、作品を支え続けるファンとともに“30周年”を迎えるお祭り的気分を共有しようというものだった。
考えてみれば、放映から30年も経っている作品であるにも関わらず、未だに新作アイテム誕生の瞬間に立ち会えるというのは、バルキリーを知るすべての人にとって幸せなことだといえるのではないか?
■写真は11月に行われた第2回目の「公開監修会」の模様。左はバンダイ ホビー部担当・内田氏と河森正治監督。右の写真では、集まった記者たちも光造形試作を実際に手に取って形状を確認している
立ち会ったホビー誌各社の誌面における取り上げ方や、ネットなどで伝わってくるファンの声を見ても、その期待感がひしひしと伝わってくる。
だが、当然バンダイと河森監督の作業は、月に一度の公開監修会だけがすべてではない。アニメ作品の製作などで忙しい監督に貴重な時間を割いてもらい(スケジュールはほとんど分刻みに近い)、公開監修会で示された方向性に従って施した改修を、再度確認してもらう。こうした何度もの修正を経て、ようやくここに来てバルキリーの形状がまとまってきたのだ。
■劇場版をイメージしたバブルキャノピーライン。そして水平に収まった脚部エンジンラインなどファイターとしてまとまりある形状でファイター形態が再現されている。頭部の大きさや腕の収納状態など、変形と形状の維持を何度も試行錯誤しながら、光造形監修時に上がった課題をクリアしたのだ
もちろん、これが最終形状とは限らない。ここからはこの外観をもとに内部の変形機構や各種ギミックを組み込む作業に入っていく。その中でさらなるブラッシュアップが図られるのは間違いないだろう。
バンダイで開発の中心に立つ内田氏は、始めにひとつの“信念”を提示していた。それはすなわち、可変戦闘機というジャンルにおいて、ファイター(戦闘機)形態とバトロイド(人型ロボット)形態を高度な次元で両立することこそが、VF-1開発において最も重要なことだ、というものである。社内では当初「ファイター形態のみに注力すべきだ」といった極端な意見も出たというが、そうしたプレッシャーを受けつつ、内田氏は自らの理想とするVF-1の開発を黙々と進めていった。
記者が見るに、河森監督はこの“理想”に最大限配慮した形で各部の形状の修正指示を施していたように思う。監督はその作品を見ても分かる通り、発想の先進性と柔軟さ、そしてその類い稀な発想を作品に落とし込むバランス感覚において業界トップクラスの才能を持っている人だ。アイテム開発においてもこの力が存分に発揮され、バンダイとの良好なコラボレーションを今まさに実現しようとしている。
■頭部、四肢、胸部の面積など、バルキリーの設計ではファイター時のバランスとの両立に想像以上の困難を伴う。バトロイドへの変形プロセスの再現はもちろん、バンダイとしては人型ロボットであるバトロイドをいかに劇中のイメージに近づけるかも大きなテーマとしているのだ
実をいえば、変形機構については今月その試作が披露される予定だった。しかし、上記のような徹底した外観形状の修正が行われた結果、予定が大きくずれ込むことになってしまったのだという。
逆にいえば、このプロジェクトに対しバンダイがいかに“本気”であるかが窺える。修正指示への対応にこれほど多くのプロセスがかかろうとは、内田氏も予想していなかっただろう。河森監督にしても、修正が完了したものを見て、さらにより完璧なものに近づけたい欲求が湧き上がったのかもしれない。30年の間に熟成されてきたバルキリーの理想像に至る過程は、こうした地道な積み重ねによって成ったのだ。
このVF-1についてはストライクパックの開発も決定したことも発表された。さらに、近々にもまた公開監修会が開催される予定だ。そこでは光造形による初の変形実証モデルがお目見えするという。次回はバンダイの提示する「変形」への解答を紹介できるだろう。ぜひ楽しみにしていてほしい。
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第2回レポート | 2012.12.26 |
今回はその模様をレポートする。
■第2回バンダイ1/72 VF-1バルキリー公開監修会に持ち込まれた光造形試作(バトロイド Ver.1)
ポーズ固定された直立状態で、設計図面からそのまま抜け出てきたような文字通りの「形状検討用試作」であるため、この写真だけの印象で完成度の判断はできない。
前回同様、バンダイ ホビー部開発チームから提出された光造形試作の形状が、河森正治監督により厳しいチェックを受ける。前回の公開監修会から約1ヶ月が経過しているが、実はその間にも1度、監督の忙しい合間を縫ってファイター形態の監修が行われていたという。
つまり、この日の公開監修会に持ち込まれた試作品は、4回目のトライ品ということになる。同時に、今回はバトロイド形態についての最初の監修が行われることにもなっており、その試作も記者陣に初公開された。
VF-1の設計における難しさは、この機体がファイターからバトロイドへの「変形」を行う可変戦闘機であることにすべてが集約されているといってもいいだろう。パーツの配置や形状、各部のクリアランスといったものは、まったく異なる形状への変形を経ることによって相互に思わぬ影響を及ぼし合うのだ。
初めて姿を現したバトロイドの試作は、ある意味でVF-1の設計に内在する困難さを、あらためて見る者に突きつけてくる。ファイターで破綻のない形状でも、それがそのまま人型のロボットであるバトロイドの理想であるとは限らない。
奇妙なことに感じるかもしれないが、ファイターの設計でいったん得られた「正解」は覆されることになる。苦心してたどりついた正解であるはずのものから、完全に異なる別の「正解」を導き直さなければならない、ということだ。言い換えるなら、「最適解」の模索である。
■河森正治監督による監修の模様。左はバンダイ ホビー部担当・内田氏
この日の河森監督による監修は、それゆえ「ファイターの最終監修」と「バトロイドの監修」が別個のものとして扱われることはなかった。むしろ、脚部のラインやボリュームに関する指摘と修正指示は、この両者のバランスを見ながら最新の注意を払って行われたのであった。
前述の通り、1ヶ所のラインを変更するだけで、全体の形状バランスに大きな影響が出る。戦闘機モデルに詳しい者であれば、たとえばキャノピーの外形がわずかに変わるだけでも、そこからつながる機首や胴体の曲面が直線的になったり、あるいは逆に膨らんだりと、シルエットや印象そのものさえも崩してしまうことを知っている。
河森監督による今回の修正指示では、主として脚部に集中していた。これはバトロイドにおける人型のボリューム感にも大きく影響する部分だが、安易に変更するとファイターで腕部を収納する機体下部の空間のクリアランスに問題が生じる。同じように、腕部のボリュームもこの空間の容積に制限されることはいうまでもない。
また、人型としてのバランスでいうなら頭部の大きさも重要だが、これも機体下部へ収納し、レーザー砲塔を機首下面に沿わせて前方に突き出す必要があるため簡単ではない。仮に「幅を小さく」した場合、砲身が機首に干渉してしまうのだ。試作ではJ型頭部が製作されているが、砲身の数と位置が異なるS型でも破綻のないようにしなければならない。こうした調整が飽くことなく続けられる。
他社のものも含め、既存のVF-1バルキリーのモデルがいかにこうした諸問題に対してそれぞれの「正解」を出して製品化を果たしたか、想像してみるのも面白いだろう。河森監督のイメージを設計という「解」に昇華する作業。バンダイの挑戦は続く──。
バンダイでは、いよいよ変形機構を含めた内部メカニズムの設計に着手しようとしている。次回はその進捗について紹介できるだろう。お楽しみに!
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第1回レポート | 2012.11.29 |
今回のVF-1プラモデル化のプロジェクトでは、まずVF-1のファイター、バトロイド形態のフォルムを入念に検証し確立した上で、変形機構を組み込んでゆくというプロセスを取るという。この形状に関しては、VF-1の生みの親であるサテライト・河森正治監督に監修をお願いしている。
バンダイがその持てる技術の粋を凝らして開発する「1/72 VF-1バルキリー」とはいったいどのようなものになるのか? VF-1の立体としては最新であり最後発であることから、当然ながらファンも“究極の”VF-1を期待しているはずだ。ではいよいよバルキリーの完成までを追うレポートの第1弾を開始しよう。
■第1回バンダイ1/72 VF-1バルキリー公開監修会に持ち込まれた光造形試作(Ver.2)
2012年10月、模型情報出版社の編集部各氏の立ち会いの下、河森監督によるVF-1形状監修会が開催された。
今回はバンダイが作った光造形サンプルを叩き台として、河森監督に実際に形状の細かなチェックをしてもらう、という主旨である。だが、実はすでに1回目の監修は終わっており、この時の修正が反映されたものが持ち込まれていた。
21世紀初頭の最新戦闘機からすれば、VF-1はやや機体規模が小さく、わずかなラインの違いが全体の印象を大きく左右する。河森監督はそのバランスの差違がどこから来るのかを的確に見分ける。
紙にプリントされた三面図に、赤色のペンで修正ラインを迷いなく描き込んでいくのを見ると、監督の頭の中には完璧にVF-1のオリジナル形状──しかも立体造形──が形作られているのに違いないと想像できるのだ。
河森監督は、「映像作品のバルキリーは、必ずしも本物をそのまま描いているわけではない。現実世界であれば軍事機密だから細部の資料が軍から提供されるわけではないし、またアニメーション作画の現場では時間や労力などの制約によって省略される場合も多い。だから、今回のバルキリーは最新の考証に基づいた“最新版”バルキリーの決定版となるものを目指したい」と語る。
■河森正治監督による監修の模様。左はバンダイ ホビー部担当・内田氏
ここで「光造形」というものについて説明しておこう。これは模型の開発過程において、形状の確認のために出力される立体で、光(紫外線)に反応して硬化する樹脂を使用している。積層によって少しずつ成形されるため、どんな複雑な形状でも造形可能だ。むろん元になる形状データはデジタル設計による。
今回紹介する光造形のVF-1は監修前と1回目の監修後に出力されたもので、河森監督による細かな修正指示が反映されてはいるが、可変機構などもなく、まだまだ未完成である。しかし、全体としてはVF-1の雰囲気がよく表現されていると感じる。
驚くべきは、バンダイが前回の修正から2週間もたたずに修正を反映し、新しいものを出力して監督の下へ届けているというところだろう。開発スピードもさることながら、光造形は出力するのにコストもそれなりにかかる。こんなところにもバンダイの本気が窺えようというものだ。
バトロイド形態になった際にもバランスに多大な影響がある頭部の大きさや二の腕の長さ、脚部エンジンナセルの膨らみなどについても、デジタルデータのプリントアウト上で確認が行われた。まったく異なる形状への「変形」という特徴を持つVF-1では、形状のわずかな違いが双方のプロポーションを大きく左右する。
約1時間にわたる河森監督の検証を経たバンダイのVF-1バルキリー。次回は第2回監修会の模様をレポートする。次回は実際に光造形サンプルとして出力されたバトロイド形状の監修だ。またそのほか進捗の様子も併せて報告したい。お楽しみに!
©1982 ビックウエスト※掲載しました写真は開発中のため、実際の製品と異なる場合がございます。
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