アニメーションで描かれたνガンダムは、とても完成度の高いデザインです。ですから今回のVer.Kaの開発にあたり、オリジナルのデザインの良さを損なうことなく立体化するという、MGで定石の手法でアプローチしていく選択肢もありました。しかし、MGですでにνガンダムは一度キット化されているのはご存じのとおりです。ボディスタイルを損なわない範囲でプロポーションを調整し、装甲にスジボリを加えて、あとは可動機構をアップデートする感じで纏めてしまうと、νガンダムのMG化2度目への挑戦というには、ちょっと寂しい物になってしまいます。なにかもっと面白くて皆が楽しめる物を、と考えていたとき脳裏によぎったのが『GUNDAM EVOLVE』版のνガンダムでした。
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 「GUNDAM EVOLVE」シリーズ(2001年)は、CGによる新しい表現を模索していく映像トライアル・シリーズである。その中の「EVOLVE5」RX-93 νGUNDAMは、ストーリープロットに富野由悠季監督も参加し、劇場版とは異なる抄訳が大胆に行なわれている。この「EVOLVE」シリーズのプロデューサーを務めていたのが堀口氏である。

 『EVOLVE 5』での3DCG制作では、νガンダムのモデリングデータは内部のムーバブルフレームまでも作られていたんです。それをご覧になった富野監督から3DCGにしかできないビジュアル表現をご提案いただいて。それが契機になって、CGモデラーによるCG造形上でのリファインが進められ『EVOLVE』版のνガンダムが誕生しました。オリジナル・デザインを残しつつ、大腿部や足首周り、上腕などはバイクのカウルのような表現になっています。軽量化されたボディの隙間から内部フレームがのぞき、MSがもつ重装甲的なイメージを書き換えた表現がされています。


 『EVOLVE 5』のνガンダムは、非常にインパクトがあります。発表当時も話題になっていました。『EVOLVE 5』版の立体物を手に取ってみたいという気持ちは、私にも以前からありましたが、『GUNDAM EVOLVE』というのはやはり少々マニアックなタイトルなので、メジャーに向けたガンプラ市場で理解が得られるかというと、そのままでは難しいのです。それでGFTで新たに作るムービーのデザインの相談を受けた時に、『EVOLVE 5』を作った増尾隆幸監督が再びνガンダムを撮ると聞きまして、この機会ならハードディテールの『EVOLVE 5』版を通常のνガンダムとリンクさせて、メジャーに訴えられるのではないかという提案をさせていただきました。ガンプラは素材そのままを生かすのがベストであるのを承知しつつも、ガンダムを最新の技術をもって大胆に造り込んだらどうなるか。Ver.Kaシリーズとしては、RB-79ボールの様なラジカルなトライアルになると覚悟しました。

 登場するといっても当初は『EVOLVE5』のCGデータを流用した、ゲスト的な扱いの登場だったんです。それをカトキさんが『EVOLVE 5』のνガンダムをベースに、GFT用として設定を描き起こしてくださって。この段階ですでに、装甲が外れたりサイコフレームが露出するような、“発動モード”のコンセプチュアルな部分はできあがっていました。増尾監督に設定画をもっていったら、『カッコイイね!』って、私 も増尾監督も気分がよくなっちゃった(笑)。『どうせなら、νガンダムもサザビーもメインの映像に登場させよう!』という方向へ、180度変わっていったんです。CGモデリング部のスタッフがすごく頑張ってくれて、『EVOLVE 5』版のCGにカトキさんのデザインディテールを入れて調整し、ほぼ作り直しをして映像に送りだすことができました。
 そうして完成したDOME-Gの映像には、瓦解していくアクシズをバックに、νガンダムとサザビーが激突する姿が描かれている。全天に展開される映像はスピーディーで、時間が過ぎるのを忘れてしまうほど。膨大な情報量をもった映像に圧倒されてしまうが、映像とプラモデルの両方に触れることでファンのイマジネーションはいっそう広がるかもしれない。

 ほぼ同じスペックをもつνガンダムとサザビーはまったくの互角で、ファンネルもビーム・ライフルも使い果たし、肉弾戦へと傾れ込んでいく。最後にはνガンダムの装甲ははがれ、破損していく内にフレームは拡張していき、サイコフレームが光を放ち発動していったのではないか? もちろん映像では明確にはされていないが、ユニコーンガンダムの“変身”が設計の段階から盛り込まれた変形であるのに対し、νガンダムの“発動モード”は偶発的に至った変形なのだろうか? '88年の劇場版では、サイコフレームはコクピット周辺の構造材にのみ使用されており、劇中の演出ではコクピット周辺が光を放っているものであった。それをMGνガンダムVer.Kaでは、発動モードとして機体全体に配置して可視化したことで、サイコフレームのイメージを明確に提示している。

 宇宙世紀をひと飛びに体験したのを思い返しながらプラモデルのギミックで遊び、ファン視点でイマジネーションを広げることがきるのは、ホビーならではの遊び方だろう。



 劇場版では、サイコフレームはコクピット周辺の構造材にのみ使用されていたので、外見上の変化もなく、わかりにくい面もありました。劇中の演出ではコクピット周辺が光を放っているくらいでした。それをカトキさんがユニコーンガンダムのデストロイモード、そして今回のMGνガンダムVer.Kaの発動モードで機体全体に配置して可視化してご提案していただいたことで、サイコフレームのイメージが明確になり理解しやすくなった。おもしろいですよね。もし『逆襲のシャア』をリメイクとはいかないまでも、アムロとシャアによる最後の一騎打ちを新規に描くとしたら、富野監督の映像演出は変わるかもしれない。たとえば『バットマン』や『スパイダーマン』はいろんな監督がリメイクしていますが、作品の真髄にあたる部分は変わっていません。クリエイターたちによって映像が進化していく段階で、こんなにかっこいいデザインが生まれてくるのなら、オリジナルのデザインには敬意を払いつつも、そこにアドオンして新しい映像の提案をするのは悪くないなと思うんですよね。

※MG νガンダム Ver.Kaの組立説明書では、さらに堀口氏とカトキ氏のインタビューを掲載!